マンションに着くとエントランス前に車を止め中に入ろうとすると、突然秋山さんが私を後ろから抱きしめてくる。

「――秋山さん? ちょっと、なにするんですか」

「すみません、まひるさん。このままじっとしていてください」

「どういうことですか?」

「……つけられてます。いいですか、絶対に顔を向けないでくださいね、生垣のそばにいる男、週刊詩の記者です」

 ぞわり、と背筋に冷たいものが走った。

「まさか、午前中から付けられてたんじゃ……」

 無防備にも私は雄飛の車の助手席に乗ってしまった。

「午前中?」

「雄飛に病院まで送ってもらったんです」

 もしその時からつけられていたのだとすれば、車に乗っていた私と雄飛も撮られているかもしれない。

「なるほど。では、こうしましょう。今から俺とまひるさんは夫婦です。俺の頬にキスしてください」

「キスですか?」

「もちろんするふりでいいんです。向こうからキスしているように写ればそれでいい」

「分かりました」

 私は言われた通りに秋山さんお頬に唇を近づける。するとそれをじっと見ていた朝飛が「僕も!」とせがんだ。

「そうだな、朝飛も一緒にハグしようか」

 秋山さんは朝飛を抱き上げて私の肩を抱いた。これで私たちは誰が見ても仲良し家族に見えるはずだ。

「これから俺は仕事に戻りますんで、それらしく見送ってください」

「はい」

 いわれた通り、私と朝飛は車に乗り込む秋山さんを見送り見えなくなるまで手を振った。