「おはよう、ママ。ここ、どこ?」

「おはよう朝飛。ここはね、お兄ちゃんのお家だよ」

「お兄ちゃんのお家?」

 朝飛は雄飛の腕からするりと床に下り、部屋の中を歩き回った。ひと通り見終えると、いきなり大声で泣きはじめた。

「朝飛のお家に帰る~」

 大粒の涙を流しながら泣きじゃくる朝飛を、私は初めて見たかもしれない。普段は聞き分けの良い、いい子だったのに。

「どうしたの、朝飛。素敵なお家じゃない。お兄ちゃんとここに住むんだよ、楽しいよ」

「いや~かえる」

 そう叫んで、朝飛は玄関に向かって走り出す。

「待ちなさい、朝飛!」

「待ってまひる」

 追いかけようとする私を雄飛は止めた。

「俺が行くよ。男同士で話してくる」

「大丈夫」そう言って雄飛はゆっくりとリビングを出ていった。

 数分後、朝飛を抱いた雄飛が戻ってきた。

「朝飛、ここに住んでもいいって。な」

「うん。ママとお兄ちゃんと一緒に住むんだよ」

「で、俺たち家族になるんだよな」

「なー」

 さっきの朝飛はどこに行ったのだろう。急に大人びた顔で、雄飛の口真似なんてして。

「雄飛、どんな魔法使ったの?」

「俺と朝飛でママを守ろうって言ったんだ。怪我が治るまでは店はできないし、助けが必要だからって」

「……雄飛。朝飛もありがとう。すごくうれしい」

 私は二人に駆け寄って、抱き付いた。すると耳もとで雄飛がささやく。

「あと、ギャオレンジャーに会わせてやるって約束した」

 それは単なるヒーローショーを見に行く約束などではなく……、翌週同じ事務所に所属しているという、本物のギャオレンジャーのレッドに会えるということだ。

「そんなことしていいの?」

 同じ事務とはいえ、迷惑にならないだろうか。それに、朝飛にもこういう特別なことが当たり前にできると思ってほしくなかった。

「いいのいいの、関係者の特権だよ」

 嬉しそうな朝飛と得意げな雄飛を見ていると、難しく考えるのはやめようと思った。