「なんだかいやな予感しかしないんですけど……」

「お、感がいいな。荷物運ぶの手伝ってくれ」

 俺はハッチバックを開け、車から降りた。

困惑する秋山にスーツケースやバッグを持たせた後、後部座席で眠っているまひるを起こした。

「着いたぞ、まひる」

「……ん、え? ごめん、私ねちゃった」

「いいんだよ、気にするな」

 おそらく痛み止めのせいだろう。それに俺は同乗者に運転中に寝られてもまったく気にならないタイプだ。

「着いたの?」

「ああ、着いたぞ。朝飛は俺が連れて行くからまひるは先に車から下りて」

「わかった」

 俺は朝飛を抱きかかえ、車のロックをかけるとみんなでエレベーターに乗り込んだ。

秋山はよほど二人のことが気になるらしい。口にこそ出さないが、説明しろと目で訴えてくる。

本当なら話したくなかったが、今後のことを考えると協力者がいた方がいいだろう。

「まひる、この人は俺のマネージャーで秋山。秋山、俺の妻と子供」

 秋山は一瞬の間をおいてから目を見開いた。

「……ええっ! 妻と、子供!!」

 あまりにも大声を出すので、朝飛が起きてしまった。

顔をあげ、周りを見渡した後泣き出すかと思ったが、まひるがいるのがわかるとまた目を瞑った。

「ユウヒさん、まじすか。妻と子供って……」

 秋山は声のトーンを落とす。

「ああでも、婚姻届けはこれから出す。因みにこの子は正真正銘俺の子だぞ」

「……そういう問題じゃなくて、社長は知っているんですか?」

「いや、話してない。そもそも話してもわかってもらえないだろ」

「そりゃそうですよ。でも社長をだまし続けることなんて不可能です」

 さすがの俺もこのまま隠し通せるとは思っていないが、せめて婚姻届けを出すまでは秘密にしておきたい。

「分かってるよ。だから秋山の協力が必要なんだ」

「俺ですか?」

「そうだよ。でもまあ、なんていうかもう協力者か」

「ええっ!」

「昨日、俺を自由にしたのは秋山だし」

 ニコリ、と笑って見せると秋山は観念したように肩を落とした。