「この間店に行った時も左手の薬指に指輪をしてなかったよな」
私はハッとして左手をポケットに突っ込んだ。その様子を見て雄飛は笑った。
「もう遅いって。いろいろと調べさせてもらった」
「調べたって、探偵とかそういう?」
「まあ、似たようなものかな。二週間張り付いて、客や業者以外の男性の出入りはなかった。しかもさっき、保育園で小森を名乗ったら通じたぞ、つまりお前は未婚だ。婿養子の線は薄い。それに……」
「それに、なに?」
「まひるが俺より好きになれる男なんて、この世にいないからな」
「雄飛のバカ! ふざけんな!」
一瞬で引き戻される。雄飛を全力で愛していたあの日に。
「この四年の間、どれだけ私が雄飛を忘れるための努力をしてきたかなんて、知らないくせに……酷いよ。やっぱり好きだって思っちゃうじゃん」
言葉にしたらあふれ出す、雄飛への思い。
「好きでいてよ、もう二度とまひるに愛想尽かされない男になるからさ」
「愛想尽かしたことなんて一度だってないよ」
ずっと好きだった。好きだから別れた。それを知らない雄飛も、私と同じように苦しんでいたんだ。
「まひる、泣くなよ」
気付いたら泣いていた。暖かい涙が頬を伝って流れていく。


