推しの子を産んだらドラマのヒロインみたいに溺愛されています(…が前途多難です)

「なあ、なにか飲むか?」

 俺は自動販売機を指さす。

「いらない」

 朝飛は小さな頭を全力で左右に振る。

「そか」

 俺はまた前を向いた。こういう時、なにをしていいのか分からなかった。

普通の父親ならどうふるまう?台本に書いてあればできるけど、リアルでは難しい。

「……ねえ、お兄ちゃん」

 俺の袖をくいくいと引っ張る。

「なんだ」

「ママ死ぬの?」

 朝飛の目にはみるみる涙がたまっていく。

ああ、そうか。大好きなママがいなくなるかもしれないって考えていたのか。

なんだ、かわいいじゃん。いや、真剣か。わかるよ、俺もまひるがいなくなったら……。

「死なないよ。大丈夫だ」

 朝飛の頭をそっとなでた。思った以上に小さくて温かくて、いとおしさがわいてくる。

生れた時はもっと小さかったのだろう。まひるはきっと一人でこの子を育てて、苦労を重ねたに違いない。

ごめん。だけど、これからは俺が二人を守るから。安心してくれていいよ。

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