推しの子を産んだらドラマのヒロインみたいに溺愛されています(…が前途多難です)

「パパ?」

「朝飛、帰るぞ。ママが待ってるから」

 俺は祈った。なにも言わず、付いてきてくれ。まひるを一刻も早く病院に連れて行かないといけないんだ。

「ほら」

 いいながら手を差し出す。朝飛は思ったのだろう。なにも言わず下駄箱から靴を取りだして履き替えると、俺の指を三本だけ握った。小さな手で、しっかりと。

「先生さようなら」

 朝飛が言うと、保育士は「さようなら」と言って見送ってくれた。

俺はホッと胸を撫でおろす。歩き始めると朝飛は黙ったままついてくる。物わかりのいい子でよかった。

そう思う反面、誰にでもついていくんじゃないかとも不安になる。

顔をみると口を真一文字に結んで、今にも泣きだしそうだ。

ここで大泣きされると困るんだが。

でも、車の窓越しにまひるを見つけると嬉しそうに駆け寄っていった。

「ママだ!」

 後部座席のドアを開け朝飛を抱き上げてまひるの隣に乗せた。

「朝飛! ……雄飛、ありがとう」

「ああ、うん……」

 聞きたいことも確かめたいことも山ほどあるけれど、まひるの体が心配だ。

二十分ほど車を走らせ、総合病院に着く。外来診療は終了していたようで、救急外来へと通された。

まひるが検査を受けている間、待合室で俺は朝飛と並んで座っていた。