「ごめん、帰って」

「帰らないよ。俺はまひるをずっと探してた」

「うそよ」

「うそじゃない。俺は一瞬たりとも忘れたことはなかったんだぜ」

 じゃあ、あの女優とのうわさはなに?そう問い詰めたかったけれど、そんなことをしたら彼への気持ちが抑えられなくなるだろう。

「とにかく話そう。中に入れ……子供?」

「え?」

「子供の泣き声が聞こえる。ほら」

 朝飛だ。

昼寝から起きて私を探しているんだろう。

すぐにでも行ってあげないと、あの急な階段をひとりで下りようとするかもしれない。

「まひる。もしかして、……結婚したのか」

 雄飛の声が震えていた。今にも泣きだしそうな目で私を見つめている。

「結婚なんてしてないよ」「そこで泣いている子は、あなたの子供だよ」そう言えたらどれだけいいだろう。

でも、出来ない。

朝飛の存在を知ってしまったら、雄飛はどうするだろう。

きっと責任を感じて結婚しようというかもしれない。

そんなことをしたら、人気絶頂の彼の仕事がなくなってしまうかもしれないから。