「行ってきます」
僕はいつものように家を出た。ねぼすけの黎依はまだ朝ごはんを食べている。登校奨励時刻である8時15分の20分前。7時55分。それが僕がいつも学校に着く時間だ。いつものように席に着き、いつものように残っている宿題を終わらせる。いつもと違うことといえば、いつもは僕よりも早く学校に来ている雄飛が、まだ学校に来ていないことくらいだ。あいつに限って遅刻なんかしないだろうから、多分欠席だろう。


外から救急車の音が聞こえる。結構近くだ。気がつくともう8時20分になっていた。朝学活が始まる時間なのに先生はまだ教室に入って来てないし、黎依だってねぼすけだけど遅刻なんかしたことないのに、今日はまだ学校に来ていない。…何かがおかしい。何があったんだろうか。黎依は今何をしているんだろうか。
「琉生」
明莉に話しかけられた。
「黎依のこと心配してるんでしょ」
こいつはどうやら僕に好意を寄せているらしい。この前黎依に、最近明莉にめちゃめちゃ見られてる気がするって言ったら、「きっと明莉ちゃんは琉生のことが好きなんだよ!」って言われた。ここまで来るともうストーカーのような気もするけど…。
「そりゃ心配するよ。あいつドジだから」
僕が黎依の心配をして何が悪い。
「でも、琉生って兄妹としてじゃなくて黎依のこと好きそう」
あー。女子ってめんどくさい。僕の気でも引こうとしてんのか?
「それは断じてない。黎依のことはちゃんと兄妹として好きだから」
「えー。ほんとにー?」
ホントだろうがホントじゃなかろうがお前に関係ないだろ。まじめんどくさい。


8時35分。あと5分で授業が始まる。普段だったら朝学活が終わって、授業の準備をしてる時間。さすがに何かがおかしい。兄さんのところへ行って、黎依を知らないかと聞いてみる?兄さんと黎依はよく一緒に学校に来るから、何か知ってるかもしれない。いや、でも他のクラスは普通に朝学活をやって、普通に授業の準備をしているんだろう。今聞きに行ったら迷惑になる。


しばらく考えていると、副担が教室に入って来た。何があったんだろうか。誰かが事故にあった?誰かが事件に巻き込まれた?黎依じゃないよな…。
「えーと、詳しいことはまだ言えないのですが、ちょっと緊急事態が起こってしまったので、他のクラスは普通に授業をしていますが、皆さんはこのまま教室内で待機していてください」
緊急事態?どういうことだ?他のやつもざわざわし始めた。
「静かに!」
が、先生の一言で一気に静かになった。
「…何が起こっているかわからなくて不安な気持ちもあるとは思いますが、他のクラスは普通に授業をやっているので、なるべく静かに自習やら読書やらをしていてください」
そう言って先生は教室から走って出ていった。急いでいるんだろうか。それとも僕たちにバレてはいけない何かがあって、ボロが出ないように早く立ち去ったんだろうか。一体何が起こったんだ?


「あのー。私もすっごく不安だけど、やっぱり皆も不安だと思うから、とりあえず今わかることを整理して、少しでも落ち着けたらなって思ったんだけど…」
学級長の美波が言った。
「それ賛成!書記はうちがやるね!」
副学級長で書道部員の沙耶が言った。
「じゃあ座席順で1人ずつ、気づいたことや今知っていることを言っていってください」