「奏多〜」

女性は部屋に入ると奏多さんの元へ走り、いきなり抱きついた。その光景を私は呆然と見ている。

「マナ」

奏多さんは女性を『マナ』と呼んだ。この人が奏多さんの彼女のマナさんなのか。私の胸がチクッと痛む。

「奏多、会いたかったわぁ。向こうで浮気してへんやろな?」

「するわけないやろ」

奏多さんと楽しそうに会話してたかと思うと、今度は私の方をジロっと見てきた。

「なぁ誰なん?その人」

「そんな言い方失礼やろ。こちらは俺がお世話になっている華月流家元の娘の桜さんや」

「へぇ」

マナさんは全く私に興味がなさそうな表情をしながらこっちを見ている。取り敢えず私は目が合ったのでペコっと頭を下げた。

「失礼な態度ですみません」

マナさんの態度に何故か奏多さんが謝ってきた。するとマナさんがクスクス笑い始める。

「奏多が標準語話しとる」

「うるさい。郷に入っては郷に従えって言うやろ?」

「あはは、話し方に違和感しかないわ」

私には奏多さんの標準語は普通に感じるけど、京都で素の奏多さんを見てきたマナさんには違和感を感じるんだ。

そして楽しそうに会話をしている二人を見てるのが何だか辛かった。