「僕はここを出ますからゆっくり支度して下さい」

あっ敬語……そうか、奏多さんの母親がいるからか。切り替え上手いな。

奏多さんはニッコリ微笑んで大広間から出て行った。

私は早速着物に着替えてサイズを確認してもらう。

「サイズも問題なさそうやね」

「ありがとうございます」

「髪の毛は私が結ってもええかしら?」

「はい、お願いします」

奏多さんの母親は器用に私の髪をセットしていく。話を聞くと、着付けからヘアメイクまで全てマスターしているらしい。

「はい完成。まぁ桜さん素敵やわ。華月家の一人娘じゃなかったら一ノ瀬家の嫁に来て欲しかったわぁ」

私はニコッと微笑んで話を聞いていたけど、何気なく言われた言葉がグサっと胸に突き刺さる。

『華月家の一人娘じゃなかったら』

それが現実なんだから仕方ないけど、一度だけ……一度だけでいいから自由な恋愛をしてみたい。

最近そんな事ばかり考えている。叶うはずないのに。

「桜さんどうしたん?」

ボーっとしていた私はハッとなり『何でもないです』と笑みを返す。

そして大広間を出た。『先に行ってて』と言われ一人で客間へ移動する。そこには無地の紋付き袴を着た奏多さんがいた。