許されるなら一度だけ恋を…

「あんまり恥ずかしい事聞かんといて」

奏多さんは呆れたように言いながら買ってきた飲み物を母親に渡す。

「そやかて気になるやろ」

ベッドに横になっている父親はニカっと笑う。

「まぁ元気そうで良かったわ。俺達は今から家に帰るけど、母さんは何時頃に帰ってくるん?」

「あら、言うてなかったかしら?今日はこれから知り合いと温泉宿に行くし、家には帰らんよ。明日の朝帰るわ」

えっ、帰ってこないということは今日は奏多さんと二人っきり!?私と奏多さんは無言でゆっくりと顔を見合わせた。

「聞いてへんし」

「まぁええやないの。奏多なら間違いは起きひんやろ?」

奏多さんの母親はニッコリして私達を見る。奏多さんは何かを言いたそうだったけど、言葉を飲み込んだみたいだ。

「はぁ……分かった。じゃあ帰るわ」

「奏多、明日は頼んだぞ。桜さんもゆっくりしていってな。それと……」

奏多さんの父親が手招きをして奏多さんを呼ぶ。

「何?」

「奏多、頑張れよ」

「……何言うてんの」

二人は小声で話をしているので何を言っているかは分からないけど、いつもと違う奏多さんが見れて嬉しかった。