奏多さんは私が泣いている間、何も言わずにずっと優しく抱きしめてくれた。

自分の中ではまだ失恋の感情がどんなものか分からないままだ。でも涙は溢れてきた。気付いてないだけで哀の感情は心の奥底にあったのかな。

何だか涙を流し終えたら、心の中がスッキリしたような気がする。そして冷静になったら抱きしめられているこの状況が恥ずかしくなった。

「あ、あの奏多さん、ありがとうございました。もう大丈夫そうです」

私はゆっくりと奏多さんから離れた。奏多さんはニコッと微笑んで私の頭を撫で撫でする。

「そういえば奏多さん、さっき関西の言葉になっていませんでしたか?」

さっきは涙が溢れてきたのでスルーしていたが、気になったので聞いてみた。

「僕、京都出身なんですよ。こっちでは関西弁だと目立ってしまうので、標準語で話すようにしているんです。さっきは思わず関西弁が出ちゃいましたけど」

「へぇ、京都のご出身なんですか」

「京都の実家も茶道をやってます。僕の父は華月流に弟子入りして、ここで家元と一緒に修行してたんですよ。だから今でも父と家元は交流があり、その縁で今度は僕がここで華月流の修行をさせていただきました」

「そうだったんですね」

そういえば私、奏多さんの事をあまり知らない気がする。