「あら、いらっしゃい」

関西の言葉の中年女性に声をかけられパッと振り向く。顔見知りなのか蒼志は『こんにちは』と笑顔で声をかけ会釈をする。

「若旦那、今日はえらいべっぴんさん連れてはるなぁ」

「はは、彼女はうちの着付師ですよ。それで今日は撮影しに来たんだけど、この辺りで撮影してもいいですか?」

「かまへんよ。それじゃあ茶でも出そうかね」

女性はいそいそと近くにある茶屋へ入っていく。どうやら女性は茶屋の店主のようだ。

呉服屋(うち)のお得意様だよ。さてさっさと撮影するか。取り敢えずその桜の木の下に立ってくれ」

私は言われた通り桜の木の下に立つ。そうか、もう桜が咲く時期なんだ。今年は暖冬だったせいか、いつもより桜の開花が早まったらしい。

風が吹き、淡い桜色の花びらが空を舞っている。綺麗だな。私は撮影を忘れて空を眺めた。

「おい桜」

「あっごめん」

蒼志に呼ばれ、慌ててカメラの方を向く。

「いや、撮り終わったから茶を頂こうぜ」

撮り終わった?いつの間に。私、ボーッと桜を見てただけなのに……