「ご挨拶が遅れました。華月 桜と申します。父から奏多さんの話は聞いてまして……今、華月流の修行にいらしてるんですよね?」

家元から娘がいるとは聞いてたけど、彼女がそうなのか。

「こちらこそ改めまして、一ノ瀬 奏多です。家元のお嬢さんだったんですね」

改めて自己紹介すると、彼女はまたニッコリ微笑んだ。さっきも思ったけど、ほんまに上品で華のある笑顔をする人やな。見惚れてまうわ。

「奏多さ……あっごめんなさい、さっきから名前で呼んでしまってますね。父が奏多、奏多言ってるのでつい……一ノ瀬さんは」

「奏多でいいです。全然名前で呼んで下さい」

「ありがとうございます。では奏多さんと呼ばせて貰いますね」

「僕も桜さんって呼んでいいですか?」

彼女は『はい』と微笑んだ。それから俺達は少しずつ打ち解けて、会話を楽しみながら呉服屋まで歩く。

「ここです」

呉服屋に着くと、桜さんが先に店の中へ入っていった。俺も後について店の中へ入る。

「あれ桜、忘れ物か?」

店の中には黒に近い紺色の(あわせ)着物を着たパッと見チャラそうな男性がいる。

「違うわよ、道案内してたの。奏多さん、こちらはこの店の若旦那の……」

「柊木 蒼志です。もしかしてお客様?」

桜さんと若旦那は二人で話を始める。そして雰囲気で気づいてしまった。桜さんはこの男性の事……