「ごめんなさい……間違ってました?」

見惚れてボーッとしている俺に、彼女はオドオドしながら話しかけてくる。あかん、俺完全に変なやつって思われるわ。

「あっいや、合ってます。俺……いや僕は華月流で修行させてもらってる者です。よく分かりましたね」

気を落ち着かせて笑顔を作る。

「この辺りを和服着て歩くのは、華月流の方が殆どですので。何か困ったような表情をしてたように見えましたので、思わず声をかけてしまいました」

「そうなんですね。声をかけてくれて助かりました。実はここに行きたいんですけど、よく道が分からなくて」

そう言って家元が書いてくれた地図を彼女に見せた。

「行き先は柊木呉服店ですか。ここから近いですし案内しますね」

「いえ、それは申し訳ないですから大体の道順を教えて貰えれば大丈夫ですよ」

それでも彼女はニッコリ微笑んで、呉服屋まで案内させて下さいと言ってくれた。

「何かすみません。この辺りの土地勘がまだないもので」

歩きながら案内してくれてる彼女に頭を下げる。

「あっ、もしかして奏多さんですか?」

「えっ……何で僕の名前を?」

彼女とは初対面のはず。何故、俺の名前を知っているのだろうか。思わず立ち止まって尋ねた。