「殿下、私たちの道は違ってしまったのです。私の夫はヒース侯爵オレリアン様であり、殿下の奥方は隣国の王女様なのです。もう、金輪際、殿下と私が寄り添うことはないのです」
「コニー、ダメだ。ヒース侯爵では、君を幸せにできない」
「いいえ、いいえ殿下。オレリアン様は誠実な方です。あの方は、死が2人を分かつまで私と一緒に生きてくださると約束してくださいました。だから私は、あの方を信じたいと思います。あの方となら、生涯寄り添って生きていけると思うのです。殿下、どうか私を少しでも想ってくださるなら、そっとしておいてくださいませ」

瞳を潤ませながら訴えかけてくるコンスタンスを前に、フィリップは唇を噛んだ。
彼は、決して暗愚な青年ではない。
国のためとは言え、長年寄り添ってきた婚約者との婚約を解消して隣国の王女と結婚するくらいの強かさはあったのだ。

だが、頭では理解しても心はついていかない。
王女を正妃として迎え入れはしても、どうしてもかつて恋した少女を忘れられない。
だから、魔が差したのだ。
もし彼女を手元に置く理由が出来るなら、それに縋りたいと。
もし彼女も同じ気持ちなら、それが許されるのではないかと。