ハビタブルゾーン

私は必死に仮面を被って振舞った。


彼は、彼女と共通の趣味(宇宙)を経て知り合ったこと、付き合うまでの馴れ初めを淡々と話した。


駅までの道のりをこんなに長く感じたことははじめてだった。



駅に着き解散する前、私は「また明日」と彼に向かって言おうとしたと同時に彼もまた口を開いた。


「この際だから言うけど、俺、美絋が宇宙に興味がないの知ってたよ」


俺と話合わせるために勉強してたでしょ?と。


あぁ、きっと最初からバレてたんだ。


毎日帰ってから分からない単語を携帯で調べてたのも、図書館で違う宇宙の本を借りてたのも。


「うん、実はそう。バレてたね」


あはは、と私は笑って返事をする。


「だからさ、もう無理しなくていいよ」


気を遣うように、優しい微笑みで放たれた言葉。


「…うん。分かった」


私も同じように返し、今度こそお別れをする。


「じゃあ、また明日ね」

「おー、またな」


彼が後ろを向き、駅のホームへ向かう姿を最後まで見つめていた。