ハビタブルゾーン

「ほんとだ、綺麗だね」


そう言って私はまた足を進める。


けど、彼はそこで止まったままだった。


「どうしたの?」


下を俯いている彼に私は声をかける。


少し黙ったあと、彼は口を開いた。


「俺さ、美絋に言わなきゃいけないことがあるんだ」


そう言って、真剣な顔つきで私を見つめる。


その顔を見て、きっとこれから大事な話をするんだろうと察した。


「うん、何?」


私はポケットから両手を出し、彼の方へ向き直った。


「あのさ…」




彼が話した内容は、先週から後輩で付き合ってる人がいるということ、そして、私と二人で帰るのはもう厳しいということ。この二点。



「…なーんだ、びっくりしたなぁもう」


私はできる限りの笑顔で答えた。


「本当におめでとう!勿体ぶってないで早く言ってよね〜!」


彼は少し驚いたような顔をした後、安心した笑みで話を続けた。


「ごめん、早く言えばよかったな、美絋と帰るのも楽しくて惜しくてさ」


「そんなこと言って、彼女さんに悪いでしょーが!まあ私もほんのちょっと寂しいけど」


あくまで冗談っぽく、内側の思いがバレないように。