【受賞&書籍化】高嶺の花扱いされる悪役令嬢ですが、本音はめちゃくちゃ恋したい

「わたくしに宛てられた手紙ですわ。レイノルド様とは毎日のように文通しておりましたの。レイノルド様のお手紙はヘンリー様が届けてくださっていました」

「やっぱり? アルフレッド様に隠れて付き合ったってわけ?」

「いいえ。付き合いだしたのは婚約破棄の後から。婚約は、国王陛下から許可をいただいた正式なものです。すでに婚約披露パーティーも終えて、結婚式の準備を進めていました」

 きっぱり言い切るとヘンリーは目を丸くした。

「マジかよ。なんでオレは忘れてたんだ……」
「レイノルド様と同じく、魔法で記憶を操られたせいでしょう」

「魔法か……。ルビエ公国は魔法を使用している国だ。アルフレッド様も、オレにレイノルドはどうしたんだと首を傾げていたし、公女の方を気にかけてる王子サマもオレと同じように魔法をかけられた可能性があるね」

「そのようですわね」

 あくまで淡々と答えながら、マリアはヘンリーの察しの良さに驚いていた。

 誰にも指図されない自由な生き方をしているがゆえに、自分が絶対に正しいという感覚も薄いのかもしれない。

(レイノルド様はその逆だわ。ご自分の意見にまっすぐな方だから)

「トラデス様は、いつ魔法をかけられたと思いますか?」

 ヘーゼル色の瞳を揺らすミゼルに見つめられて、ヘンリーはうーんとうなった。

「いつっていうと難しんだけど……。公女サマが連れてる執事は知ってる? オースティンとかいう。あの男が第二王子の執務室にやってきた時に耳鳴りがしたのは覚えてる。健康優良児のオレが耳鳴りだよ。信じられる?」

 オーバーに両手を広げて、ヘンリーは空笑いした。

「あの日、部屋にいた側近たちはオレと同じ状態だと思っていい。ちなみに、アルフレッド様は雑用をしていて別の場所にいた。アルフレッド様には厳しい監視役がついていて、オースティンが気軽に世間話できる状態じゃない」

「だから、アルフレッド様だけ正気なのですわね」