「レイノルド王子サマの物だよ。引き出しからそれを見つけて思い出したんだけど、オレは以前、王子サマの手紙を何度もどこかに届けていたはずなんだ。でも、誰に送っていたのかどうしても思い出せない。王子サマの側近に聞いても誰も覚えてないんだよ。こんなのおかしいでしょ?」
オレ、まだ十代なのに物忘れってレベル超えてない?
そう言うヘンリーは、マリアとレイノルドの同級生。
名のある騎士を多数輩出するトラデス子爵家の令息である。
在学中は、襟足の長い赤毛と右目の泣きぼくろがセクシーだと女生徒に人気があった。
当人もそれをわかっていてかなり女遊びをしていて、何人もの貴族令嬢が彼に泣かされている。
無害な男より危険な男の方が面白みがあるのは当然だが、わざわざそんな相手に恋をしなくても、とマリアは思っていた。
二人が屋敷にやってきた時、マリアは真っ先にミゼルが彼に騙されたのではと心配した。
しかし、単なる知り合いのようだ。
自身の記憶に齟齬があると気づいたヘンリーは、忘れた部分を取り戻そうと情報通のミゼルを頼ったというわけである。
「だから、これを持ってミゼルちゃんのところに行ったわけ。そしたら、相手はマリアヴェーラちゃんに違いないって言われてさ。開いてみて」
言われて表紙をめくると、書きかけのメッセージが現れた。
愛しい恋人へ、から始まった手紙には、レイノルドの混乱が書かれていた。
――ルビエ公国の公女がやってきたせいで、二人で会う時間が取れなくなった。結婚式の準備も進まなくてすまない、あんたに愛想を尽かされないか心配だ。別邸のことも任せきりで何もできない自分がふがいない――
心の中を代弁するかのように続く文章は、
「こんな手紙、送られても困るよな。これは捨てて書き直す」と殴り書きされていた。
(レイノルド様……)
恐らく、マリアが別邸の改装に奔走している間に書かれた文だ。
レイノルドは結局、この手紙を破いて新たな手紙を書かないまま、マリアの記憶を消されてしまったのだろう。
彼の愛が感じられるメッセージを、マリアは愛おしそうに指でなぞった。
オレ、まだ十代なのに物忘れってレベル超えてない?
そう言うヘンリーは、マリアとレイノルドの同級生。
名のある騎士を多数輩出するトラデス子爵家の令息である。
在学中は、襟足の長い赤毛と右目の泣きぼくろがセクシーだと女生徒に人気があった。
当人もそれをわかっていてかなり女遊びをしていて、何人もの貴族令嬢が彼に泣かされている。
無害な男より危険な男の方が面白みがあるのは当然だが、わざわざそんな相手に恋をしなくても、とマリアは思っていた。
二人が屋敷にやってきた時、マリアは真っ先にミゼルが彼に騙されたのではと心配した。
しかし、単なる知り合いのようだ。
自身の記憶に齟齬があると気づいたヘンリーは、忘れた部分を取り戻そうと情報通のミゼルを頼ったというわけである。
「だから、これを持ってミゼルちゃんのところに行ったわけ。そしたら、相手はマリアヴェーラちゃんに違いないって言われてさ。開いてみて」
言われて表紙をめくると、書きかけのメッセージが現れた。
愛しい恋人へ、から始まった手紙には、レイノルドの混乱が書かれていた。
――ルビエ公国の公女がやってきたせいで、二人で会う時間が取れなくなった。結婚式の準備も進まなくてすまない、あんたに愛想を尽かされないか心配だ。別邸のことも任せきりで何もできない自分がふがいない――
心の中を代弁するかのように続く文章は、
「こんな手紙、送られても困るよな。これは捨てて書き直す」と殴り書きされていた。
(レイノルド様……)
恐らく、マリアが別邸の改装に奔走している間に書かれた文だ。
レイノルドは結局、この手紙を破いて新たな手紙を書かないまま、マリアの記憶を消されてしまったのだろう。
彼の愛が感じられるメッセージを、マリアは愛おしそうに指でなぞった。



