オースティンと連れ立って部屋を出ていくレイノルドに手を振ったヘンリーは、彼がさっきまで座っていた席に腰かけた。

 ヘンリーの仕事はレイノルドの護衛だ。
 だが、公女と会う際は必要ないと強く言われている。

 いや、近衛騎士団の団長には必ずついていくように命令されているのだが、オースティンを視界に入れると不思議とやる気がなくなってしまう。

 レイノルドの側近も同じで、彼が来ると一時的にぼうっとしてお菓子を食べることしかできなかったりする。
 ぞろぞろと菓子箱を漁るだけの群れができあがるのを、ヘンリーもまたどこか抜けた頭で眺めた。

「こうなったのっていつからだったっけ。たしか、王子サマについて別邸に行った時? ぼんやりするせいで女の子のデートもすっぽかしちゃったし……ん?」

 引き出しから何かはみ出している。
 取っ手を引くと、王族だけが使える便箋と封筒、封蝋が出てきた。はみ出していたのは書きかけの便箋だ。

 便箋には、レイノルドの筆跡でロマンチックな言葉が書かれている。

 恋文だ。
 しかし、愛の言葉は途中で途切れていた。

「そういえば、以前はよく手紙を届けるように頼まれてたな。誰に出していたんだっけ?」

 記憶がすっぱり抜け落ちている。まさか、この年齢から認知症か。
 それとも、若気の至りでヤバい飲み方をしてきたツケが回ってきたか。

 思い出せないなら推測するまでである。

 相手は絶対に女。
 一日に二度も歩かされることもあったので相手は王都にいるはずだ。

 わざわざ王族の封筒を使っているので、レイノルドが身分を偽らずに連絡をやり取りできる環境にいる。

「十中八九、貴族令嬢だ。あの子ならわかるかな」

 とある情報通を思い浮かべて、ヘンリーは便箋セットを掴んだ。