田園が広がる南部地方は農業が盛んで、牧歌的な暮らしと文化が今なお息づいている。
 言葉づかいも独特で鼻にかかったような発音をする。
 王都の舞台をふんでいる南方出身の女優は、劇場に入ってまず訛りを直したというくらい個性的なのだ。

 ルビエ公国からやってきた侍女が、なぜ南方訛りのタスティリヤ語を使っているのだろう。

「ありがとうございます。ちょうど喉が渇いていたんです。皆さんは昔から公女殿下に仕えていたのですか?」

 マリアお茶の席に加わって尋ねると、侍女たちはゲラゲラ笑い出した。

「まさか。あたいらは雇われだべ。いきなり村に公女様が乗った馬車が来て、侍女を探していると言ったんだ」

「田舎じゃ考えられねえくらいの高給だもんで、村中の娘っこが志願したんだよ。そんで今じゃ公女殿下の侍女! 気分はいいけど、執事のオースティンってのが難しい奴でね。あたいらに人前でしゃべるなってんだ」

「誰にも言わないでくれよ。これがバレたら酷い目にあわされるらしいんだ」

 マリアが別邸に行った際、ルクレツィアの侍女たちは無口だった。
 礼儀を徹底させているのかと思っていたが、田舎で急募した娘だと知られないためだったようだ。

(ルビエ公国の公女ともあろう人が、侍女を一人も連れないで他国へやってくるなんてことあるかしら?)

 公爵令嬢のマリアですら、旅行にはジルと他の侍女を五人は連れて行く。
 これでも少ない方で、普通は二十人はお供させる。

 貴族は、着替え、食事の準備、入浴にいたるまで使用人に任せている。
 それは女性も同じで、掃除や料理の経験がないまま大人になる令嬢も少なくない。

 ルビエ公国の公女も同じだろうに、彼女の純粋な従者はオースティンのみ。
 タスティリヤに遊行をしに来たというのは表向きの理由で、深い事情がありそうだ。

「第二王子殿下が来たべ」