「アルフレッド様。レイノルド様は、今日のルクレツィア様のドレスに関わっていらっしゃいましたか……?」

「急に真顔にならないでくれ! レイノルドは何も知らなかったはずだ。最近は執務室に近づくのも難しいが、彼女のドレスを見て自分と同じ色だと呟いていたから間違いない」

「近づくのが難しいのは、何か理由があるんですの?」

「君が悪くてな……。レイノルドと他の側近たちが、まるで貴方を忘れたようにルクレツィア公女殿下相手の結婚式の準備を始めているんだ」
「何ですって?」

 思いがけない話に、マリアの涙は引っ込んだ。

 来年の春に予定されているマリアとレイノルドの結婚式は、国を挙げての儀式である。
 準備も相応に進められてきたが、ルクレツィアがやってきたせいでスケジュールは遅れている。

 そんな状況で、なぜルクレツィアとの式を並行して準備し始めたのか、まったく意味がわからない。

 アルフレッドは、途方に暮れた顔でマリアの向かい側に腰を下ろした。

「私はどうにも納得できない。ルクレツィア様は素晴らしい女性だが、あれほどマリアヴェーラ一筋だったレイノルドが心変わりをするだろうか。たしかに彼女は美しいし、私も惚れそうになった。けれど、レイノルドは見た目で人を判断しない。大切な人間を邪険にしない。今のあいつは別人のようで、とても心配だ」

「アルフレッド様……」

 彼がこんなにもレイノルドを気にかけているとは知らなかった。
 やはり双子というのは、性格や考えが違ってもどこかで繋がっているのかもしれない。

 アルフレッドは、様子のおかしいレイノルドを思い出してため息をつく。

「私とレイノルドは幼い頃から一緒に育ったんだ。弟に異変が起きているのはわかる。そのせいで貴方が苦労していることも。私に何かできることはあるだろうか?」

「できること……」

 マリアの唇が震える。今の状況で何ができるのかわからない。
 でも、願いは途方もなく湧き出てくる。

「……以前のレイノルド様を取り戻したいです」
「協力しよう。まずは、レイノルドに何が起きているか確認しなければな。私は推測が苦手なので貴方に頼みたい」

「で、ではレイノルド様のスケジュールと、ルクレツィア様との接触回数を教えてください。できれば二人の会話の内容も」
「そんなことでいいのか。任せてくれ。この第一王子アルフレッドに不可能はない!」

 力強く言い切って、アルフレッドはマリアと固い握手を交わした。

 学園にいた頃はマリアがアルフレッドを支えていた。
 しかし今は、彼がマリアの力になってくれる。味方でいてくれる。

「ありがとうございます。アルフレッド様」

 感謝の気持ちで胸が温かくなった。
 同時に、ルクレをやり込める実行部隊は、マリア自身でなければならないと思う。

 アルフレッドはタスティリヤ王国の第一王子だ。
 これ以上の醜聞は、彼自身の身の破滅を招く。

 マリアは、涙をぬぐって遠くの歓声を振り返った。

「高嶺の花がなぜ手折られないか、思い知らせてやりますわ」