膝にしいたナフキンを掴んで闘志を燃やすマリアに、「お手伝いします」とミゼルは言う。

「といっても、私はマリアヴェーラ様のように聡明ではありませんから、いざというときのストレス発散をご一緒します」
「その後のダイエットもね」

 軽口を言い合って、マリアとミゼルは笑った。

 彼女のような友達がいてよかったと心から思う。
 一緒に怒ったり悲しんだりしてくれる人がいなければ、何もかもを投げ出してしまったかもしれない。

「それでは、行きましょうか。マリアヴェーラ様」
「ええ。満足するまでおかわりしてやるわ」

 料理とテーブルの間を三往復してお腹をスイーツで満たしたマリアを、ミゼルはジステッド公爵家まで送り届けてくれた。

 屋敷に入ると、慌てた様子でジルが駆け寄ってくる。

「マリアヴェーラ様! レイノルド王子殿下からお荷物が!!」
「なんですって?」

 早足で確認しにいく。
 マリアの自室には、リボンをかけた大きな化粧箱が置いてあった。

 添えられていたのは、国王が主催の舞踏会への招待状だ。

 震える手でリボンを解くと、中から現れたのは夜会用のドレスだった。
 レイノルドの瞳と同じサファイヤ色で、胸元やスカートの裾に銀糸で薔薇を思わせる刺繍が入れられている。

「っ、レイノルド様……!」

 思わず、ドレスを抱きしめた。

 貴公子が自分の瞳の色のドレスを贈る。
 それは、相手の女性を心から愛していると示す意味がある。

 舞踏会の前に贈った場合は、このドレスで自分と一番に踊ってほしいということだ。
 レイノルドはルクレツィアではなく、マリアを伴侶に選んでくれたのだ。

(少しでも彼の愛を疑ったわたくしが馬鹿だったわ)

 泣きそうな顔で見守っていたジルに、マリアは涙をぬぐって微笑みかけた。

「また前のように肌や髪を手入れしてくれるかしら。レイノルド様に一段と美しくなったわたくしを見ていただきたいの。舞踏会に間に合わないかもしれないけれど」

「間に合わせます。絶対に」

 力強く頷いたジルは、その晩から徹底的にマリアの美容に力を入れた。
 肌を、髪を、まつ毛を、爪を。あますところなく美貌を磨き上げ、ついに舞踏会当日――