「真実の恋をしている人は、好きな人から何も奪いません。慈しみ、与えたい、ただそれだけ。そういう気持ちを恋と呼ぶのだと、わたくしは信じております」

 マリアは、そんな関係にアルフレッドとなりたかったのだ。
 だが、アルフレッドはそうではなかった。欲しがっても欲しがっても、例え婚約通りに結婚しても、彼はマリアに恋の煌めきを与えてはくれなかっただろう。

 第一王子の婚約者の座から自由になれたのは、いっそ幸いと言える。

「婚約破棄された身で言うと笑われるでしょうけれど、わたくし、ほんとうの恋をしてみたいのです」

 マリアが晴れ晴れと――周りからすると人並み外れて気高い雰囲気だったが――笑うと、ミゼルはぱちくりと瞬きをして、婚約指輪を失った左手を見た。

 無理やり引き抜かれたので、赤い跡がついている。彼女は、単純に貴金属を奪われたのではない。恋する者が心に秘める誇りを踏みにじられたのだ。

(あなたも勇気を出して)