ジステッド公爵家の庭には、秋の花が咲きそろっていた。
 ジャスミンやブーゲンビリアのような夏の花も華やかで美しかったが、冬に向けてどんどん寒くなっていく季節に咲く花は、力強い色を放つから好きだ。

 花を見ると心が安らぐ。
 気を張って高嶺の花らしく振る舞っていた頃も、花はマリアの貴重な癒しだった。

 それなのに、しゃがみこんで鮮やかなチェローシアを眺めてみても心は沈んだままだ。

「またレイノルド様から返信がないわ」

 以前も同じようなことがあった。
 あのときはお互いに連絡を待っていてすれ違ってしまったので、今回はマリアの方から二日連続で手紙を出した。

 しかし、レイノルドからの手紙は来ない。

(なぜ?)

 何かあったのではという不安と、そんなことで不安になる自分への情けなさが胸の奥で渦をまく。

 こうなるから恋人からの連絡を待っている間が嫌いなのだ。

 どんなに想っていても、顔も声も毎日少しずつ薄れていくような気がする。
 せめて言葉がほしいのに、ないがしろにされている気分になる。

 彼にかぎってそんなことはしないとわかっていても、不安になるのが乙女心だ。

(今頃、レイノルド様は何をしていらっしゃるのかしら)

 うっかりレイノルドとルクレツィアが並んでいる姿を想像してしまって、マリアは首をぶんぶんと振った。

「待っているなんてわたくしらしくないわ」

 顔が見えないから不安になるのだ。
 こんな気持ち、会って一言でも言葉を交わせたらあっという間に消し飛ぶ。

「宮殿に行ってみましょう」