名前を呼ぶと、次の部屋にルクレツィアを案内していた彼女は、くるっと振り向いて微笑んだ。
 野の花が開いたように可憐な表情で。

「何でしょう?」

 ふわっとなびく亜麻色の髪や、薔薇色に染まった頬を見たら抑えが効かなくなった。
 レイノルドは、気づけばマリアを抱きしめていた。

「きゃ!?」

 悲鳴までかわいいとか。

(反則だろ。こんなの)

 マリアの新たな面を知るたびに、レイノルドは彼女をどんどん好きになる。
 まるで底なし沼だ。。

 こんなに素晴らしい女性が自分を選んでくれたのは、奇跡としかいいようがない。

(絶対に守り抜く……!)

 決意を込めてぎゅーっと抱きしめていたら、りんごより真っ赤になったマリアが叫んだ。

「れ、レイノルド様、人前ではこういうことは……恥ずかしいです」

 蚊の鳴くような声で告げて、ぷしゅっとマリアの頭のてっぺんから空気が抜けた。
 脱力した体を支えて、レイノルドは笑う。

「ははっ。あんたかわいいよ」
「ですから、そういうのも外では止めてください!」
「そう言われたら、余計に放したくなくなった」

 ダンスでもするように寄り添っていると、ごほんという咳で現実に引き戻される。

「何をしてらっしゃるんですか? お二人とも」