いきなり国王が両手を打ち鳴らしたので、マリアはぎょっとした。
 国王は、こいつ正気かという顔つきの妻をどうにかして懐柔しようと、不自然な笑顔で言いつのる。

「お前のそばで勉強したいと言うんだから、少しだけ面倒を見てやってはどうだ? な、いいだろ? いいだろ??」
「え、ええ……。陛下がどうしてもおっしゃるなら」

 王妃はしぶしぶと言った様子で受け入れた。

(聡明な方ではあるけれど、調子に乗りがちなところはアルフレッド様の父という感じね)

 普段これを諫めているエマニュエルに感服すると同時に、マリアは冷めた目でルクレツィアを見る。

 弾けるような笑みを浮かべて喜んでいる世間知らずの公女様。
 妖精のように愛らしい姿に、国王はデレデレと、アルフレッドや側近たちも見とれている。
 けれど、マリアはわずかな違和感をぬぐえなかった。

(……見た目通りの清廉な人物に思えないのはなぜかしら)

 ルクレツィアの雰囲気は、マリアが大好きな甘くてかわいらしい物と似ているのに、それらから感じる幸福感がない。

 まるで、とびきり甘い悪夢を見ているときのような、夢みたいな詐欺話にのせられたときのような、心のどこかで鳴る危険信号を無視して手に入れた偽りの愛に溺れるような気分――

 眉をひそめていたら、ルクレツィアの視線がこちらに向いた。

(?)

 しかし、それも一瞬のこと。
 彼女はレース仕立てのドレスをつまみ、うやうやしくお辞儀をする。

「それでは、しばらくよろしくお願いいたします。国王陛下、王妃様、それに双子の王子殿下たちも」