通常、国主への書状は送り主の使者が厳重な警戒のもとで運ぶ。
 途中でなくしたり盗まれたりするのを防ぐためだ。

 ルビエ大公も書状を信頼のおける使者に送らせているはずだ。
 それが届いていないということは、タスティリヤ王国内で使者が任務を遂行できない状態になったか、もしくは届いているのに国王が無視したかだ。

 使者が入国したら、騎士団を護衛につけるのがタスティリヤの習わし。それなのに、今回は動いていない。
 公女ほどの要人の移動も補足していなかったとなると、国境との連絡不備を認めざるを得ないだろう。

 マリアの予測通り、国王は申し訳なさそうに謝った。

「書状に関してこちらの不手際があったようだ。国を代表して謝罪しよう。ルクレツィア公女のタスティリヤ王国滞在を心から歓迎する」

「ありがとうございます。ついでと言っては何ですが、一つお願いがあるのです。私を王妃様の侍女にしてくださいませんか?」

 ルクレツィアの申し出に、王妃エマニュエルは自慢の美貌を曇らせた。

「まあ……。それはどうしてですの?」

 問いかけられたルクレツィアは、両手を組み合わせて目を閉じた。

「ルビエ公国にいた頃、王妃様の噂をよく耳にしました。その美しさと振る舞いはアカデメイア大陸で他に並ぶ者がいないと。私もそんな風になりたいのです。侍女として仕える代わりに、王族としての生き方を教えていただけないでしょうか」

「ですが、大国の公女を侍女として使うわけには……」

 難色を示したエマニュエルに、マリアは同情した。

 たとえ本人たっての希望だろうと、力関係ではるかに上にいるルビエ公国の公女を使用人の立場にはすえられない。
 使用人扱いをルビエ大公が許すとは思えないからだ。

(もしも彼女の言う通りにすれば、いらぬ火種になる可能性があるわ)

「いいじゃないか!」