宮殿の謁見の間にはそうそうたる面々が集結していた。
 玉座に腰かけた国王と王妃をはじめ、段下には正装でめかし込んだ第一王子と第二王子、さらには宰相までいる。

(ルビエ公国は大陸の北部に広大な国土を持つ大国。タスティリヤ王国のような小国が無下にはできない相手だわ)

 王子たちの背後に並んだ側近のそばで、マリアはこの事態を冷静に見守っていた。

 国王に深くお辞儀をしているのは、光の像で見た通りの姿をした線の細い少女だった。

 彼女こそ、ルクレツィア・アンバー・ルビエ公女殿下。

 白い髪は蜘蛛の糸のように細く、姿勢を戻すと片腕に閉じ込められそうなほど細い腰にまとわりつく。
 目じりの下がったおっとりした顔立ちは世間知らずの公女らしい。
 国王に向ける紫色の瞳は、光の加減で砂金がきらめいているように見えた。

 そのせいか、人間らしからぬ雰囲気をたたえている。

 まるで、妖精の国の女王。
 魔法がかかっていた青琥珀のブレスレットは、今にも折れそうな右手首にかかっていた。

「タスティリヤ国王陛下ならびに王妃陛下、お目にかかれて光栄です。私はルビエ公国からまいりました、ルクレツィアと申します」

(なんて美しい声かしら)

 ルクレツィアの声は、鉄琴のように高く澄んでいた。
 名乗りに合わせて伏せたまつ毛は、マリアの位置から見えるほど長く、三日月のようにくるりと丸まって艶めいている。

 いかにも公女らしい容姿と立ち居振る舞いを見て、国王は生半可な扱いはできないと息をのんだ。

「ルクレツィア公女、よくぞおいでくださった。しかし、なぜタスティリヤに?」

「我がルビエ大公家では、勉強のために一生に一度は他国へ行くように推奨されております。雪深い国で育った私は、一年中花が咲き乱れる温暖な国への憧れがあったので、タスティリヤ王国を滞在先に選びました。ルビエ大公から手紙を差し上げたはずですが……。そうよね、オースティン?」

 きょとんとしたルクレツィアは、後ろに控えていた従者に問いかけた。
 執事服を着たオースティンは、狐のように細い目の青年をさらに細め、抑揚にとぼしい声でもって答える。

「タスティリヤ国王宛ての書状は、一か月前に送られたと記憶しております」

 質問に慣れている様子を見ると、二人は付き合いの長い関係のようだ。

 オースティンの言葉を聞いて国王と宰相の顔色が変わった。
 側近たちにも緊張感が走り、マリアの肌をピリピリと刺す。

(まずいわね)