石畳を丸く照らした光が、ずずずっと盛り上がって人の形になる。

 ドレスを着た細身の女性の姿だ。
 女性はスカートをつまんで深くお辞儀している。

『――突然の訪問をお許しください。私はルビエ公国の第五公女、ルクレツィア・アンバー・ルビエ。タスティリヤ王国の国王陛下にお目通り願います』

 砂嵐のようなノイズ交じりの声は若々しい。

 ブレスレットを握っていたレイノルドは、光の像から目を離さずにマリアに問いかけた。

「ルビエ公国は確か、魔法が使われている国だったよな」
「ええ。魔法によって大国に発展したとも言われておりますわ」
「となれば、相手は本物の公女か……」

 レイノルドは光の像が薄れるのを見届けて、声高に命じた。

「馬車を通せ。相手の身柄はまだはっきりとしないが、国賓と同等の扱いでもてなす。……マリア、すまない。今日の打ち合わせはキャンセルだ」

 眉を下げられたが、マリアは少しも気にしていなかった。

「できましたら、その謁見を見学させていただくことはできませんか?」

 レイノルドと結婚して王家に入る身として、国賓への対応が見られる機会は逃せない。

「いつか王妃になったとき、国の恥とならないように経験を積みたいのです」
「本当にお勉強好きだな、あんた。交渉してみよう」

 レイノルドは、恋人を出会い頭に帰さずにすんで、どこかほっとした様子だ。
 彼がマリアを大切にしていることは、スズランのラベルピンから十二分に使わってくるのに。

(さて、ルビエ公国の公女殿下とはどんな方かしら)

 マリアは甘い恋人から凛とした公爵令嬢の顔になって、正門の方角を見つめる。
 うまく挨拶できるかしらと、のん気に考えながら。