マリアの婚約者である、第二王子レイノルドの話をしよう。

 彼はオオカミのような白銀の髪に、凪いだ海より青い瞳を持つ青年で、大勢でいるより一人きりでいることを好む。
 頭脳明晰で身体能力も高く、しかし町の小悪党とつるんでいた過去があって〝悪辣王子〟と呼ばれていた。

 不良になったのは環境のせいだ。
 レイノルドの周囲にいたのは、無能な兄をちやほやする父王や側近たち。
 自分を見てくれない彼らに愛想をつかして街に下りるのも仕方がなかった。

 けれど、それも過去の話。
 現在の彼は、いずれ国王となるために日夜勉強に明け暮れている。

 双子の兄アルフレッドが持っていた継承権第一位の座を与えられたのは、そうなるようにマリアが働きかけたからに他ならない。

 レイノルドが国王に。
 そしてマリアが王妃に。

 遠くない未来を目指して、二人は離れていても切磋琢磨していた。
 
(今日はレイノルド様にお会いできる日!)

 ジステッド公爵家で暮らしているマリアがレイノルドに会えるのは、もっぱら来年に迫っている結婚式の準備を行う日だ。

 カレンダーに記したこの日に向けて、マリアはコンディションを整える。
 恋人に肌荒れやクマなんて見せられない。

 身につけた三段フリルのツーピースドレスは下ろしたてだ。
 レイノルドに一番に見てほしくて今日まで着るのを我慢してきた。

(かわいいと言ってくださるかしら)

 髪飾りに大きめのリボンを選び、胸元にはスズランのブローチを付けたマリアは、そわそわと宮殿に向かった。

 馬車を降りると、ちょうど扉が開く。
 そこに立っていたのは会いたかった張本人。

「レイノルド様!」