きゅんと鳴る胸を抑えて、マリアは目をつむった。

 清楚で、優雅で、可愛らしいウェディングドレスを着て、大好きな人との結婚式にのぞめるなんて夢みたいだ。

 マリアは自分で言うのもなんだが爆美女である。
 敵を容赦なくやり込める姿は悪女のようでもある。

 物語の登場人物でいうなら圧倒的にヴィラン。
 しかしてその実態は――ド級のかわいい物好きなのだ。

 フリルとレースが主食。
 丸みを帯びたファンシーなデザイン、小さくてコロンとした小物、ピンクや水色といった淡いカラー……好きを挙げるとキリがない。

 この本性を知っているのはレイノルドと親友のミゼル、信頼のおける侍女ジルなど限られた人間だけ。

 知らないペイジは、身もだえするマリアに不思議そうな顔を向けた。

「どうされました?」
「なっ、なんでもございません!」

 慌てて表情を引き締める。

(いけない、いけない。今は第二王子の婚約者らしく凛としていないと。でも……)

 見下ろすドレスの可憐さに、どうしても頬が緩むのを止められない。

「……早くレイノルド様に見ていただきたいわ」

 結婚式は来年の春。
 花嫁姿は、式当日まで花婿に見せてはならないのがマナーだけど。

 レイノルドが見たらどんな表情をするのか、考えるだけで胸が締めつけられる。
 今日もマリアの恋心は絶好調だ。

「ははっ。それは式当日までおあずけですな」

 ペイジは笑顔で試着の時間を締めくくった。
 幸せな一日だったと、後に回想したマリアは思う。

 まさか、二人の間を引き裂く嵐が今まさに近づいているとは、マリアもレイノルドも気づいていなかったのだ。