一介の貴族令嬢が背負うには重たすぎるイメージを付けてくれたものだと思う。
 このせいでマリアは必要以上に自分を律して、考えすぎたり努力しすぎたり、自分を嫌いになったり、追い詰めたりもした。

 だが、このドレスを着て鏡に映った自分はどうだろう。

 棘のある高価な花には見えない。
 清らかで純粋なおとぎ話の登場人物のようだ。

「……わたくし、お姫様になったような気分ですわ」
「そりゃあいいことですな」

 和やかに答えたは、このドレスの製作者であるペイジだ。

「ジステッド公爵家のご令嬢に気に入っていただけて光栄です。第一王子殿下との婚約破棄で、ドレス制作の依頼も消えてしまうかと思いましたが、こうして縫うことになって工房一同みんな喜んでいますよ。第二王子もこの姿を見たら感激なさるでしょう」

 裾を待ち針で止め終わった彼は、しゃがんだせいで固まった腰をぽんぽんと叩く。
 白髪が目立つ初老の男性に、中腰はつらかったようだ。

「椅子に座ってお休みになってください」
「大丈夫ですよ。次はお待ちかねのあれですから」

 ペイジは工房から持ってきた箱を開くと、中から取り出したヴェールをマリアの髪に付けてくれた。

 ヴェールの端をぐるりと飾るレースを見て、マリアはあっと思う。

「ペイジ殿、もしかしてこれは」
「マリアヴェーラ様からリクエストがあった、薔薇のモチーフレースを取り入れてみました。単体だと可愛らしさが目立ちますが、上質なヴェールと合わせると妖精のようでしょう?」

「ええ。わたくし、あなたのドレスが着られて嬉しいですわ」

 実は、一度ウェディングドレスの製作は取りやめになっていた。
 マリアが第一王子アルフレッドに婚約破棄されたからだ。

 タスティリヤ王国の首都にはいくつもの高級な仕立て屋があるが、マリアは自分の好きなテイストで作られたウェディングドレスを着るのが夢だった。
 願いを叶えてくれそうな職人を探し、丁寧な仕事ぶりで固定客ばかり取っていた素朴な工房のペイジを見つけ出して、やっと依頼したのだ。

 だから、中止はとてもショックだった。

 第二王子レイノルドと婚約することになって再び依頼をすると、ペイジをはじめ工房の人々は大喜びで仕事にあたってくれた。

 小さく開けた窓から吹き込んできた秋風にふわりと揺れる。
 妖精の羽根のようなビジュアルは、なんて。

(かわいいの~~!)