「素敵だわ……」

 純白の衣装に身を包んだマリアは、金縁の大きな姿見を見てため息をついた。

 ネックラインから腕までを覆う繊細なレース。
 胸から腰にかけて曲線を描くたくみなライン。
 膝の辺りでくびれて床に広がるスカートは、まるでマーメイドの尾ひれのようだ。

(体のラインがこんなに出ているのに、ここまで清楚なドレスは初めてだわ)

 外見がコンプレックスのマリアにとって、服選びは悩みのタネだった。

 体のラインがあらわになる服を着ると痩せては見えるが、胸が強調されて下品に見える。
 逆に、まったく体型を拾わないスモックみたいな服を着るとさらに悲惨だ。胸の大きさで突っ張った布がウエストのくびれを消失させて、とてつもない巨体に勘違いされてしまう。

 さらに服選びを難しくしているのが、マリアの顔つきだった。

 美しいのだ。
 この世のものとは思えないほどに。

 ツンと高い鼻は見た者の口をふさぎ、開いた扇のように華やかな目元は心を奪う。
 さらに深紅の唇で微笑みかければ、あっという間に人々はひれ伏す。
 だが、誰しもが遠巻きにするだけで手折ろうとはしない。

 ジステッド公爵家の令嬢マリアヴェーラ、またの名を〝高嶺の花〟。
 鋭い棘を持つ薔薇の花のように近寄りがたいマリアには、二つとないぴったりの異名だ。

(わたくしをそう呼び始めたのは誰だったのか……今となってはわからないけれど)