ほんの少しだけネリネにお灸をすえたつもりだった。
 けれど、思い返してみれば、マリアがやったのはまぎれもない復讐だ。

 ネリネはもう二度と王都には戻れない。レンドルム領からも出られない。
 生まれた家を見に行くことはおろか、共に育ったアルフレッド、レイノルドと面会することもできないのだ。

 そんな彼女を労りもせず、最後に恥をかかせるなんて。
 悪女としか言いようがない。

「わたくし、レイノルド様だけは奪われたくなくて、ネリネ様に酷いことをいたしました。恋を守るためと立派な言葉で正当化しても、許されることではありません」
「…………真面目だな、あんた」

 レイノルドは、手を伸ばして水筒からカップに冷えた紅茶を注ぐ。
 こぽこぽと音を立てる液体は、日陰のせいか血のように赤く見えた。

「あんたがやったのは、せいぜい逆さ吊りだろ。俺なんか、あんたを奪おうとするやつは殺せる」
「ころす? そんな恐ろしいこと、レイノルド様がなさるはずがありませんわ」

 マリアは首を振って否定するが、当人は平然とのたまった。

「する。俺はあんたに恋をしている。恋は恋でも、あんたが思っているみたいに可愛くない、ずっと激しくて、衝動的で、火傷するような、そういう恋だ」

 レイノルドは、クールな外面には似合わない、強くたぎる熱情を燃やしていた。
 驚くマリアは、続いた言葉にさらに衝撃を受ける。

「あんたへの想いを秘めていた頃の俺とは別人になったみたいだ。一度でも自分のものになったあんたを簡単には手放せない。あんたがしている恋は、俺がしているものより柔らかくて、優しくて、砂糖菓子みたいに甘いものだ。そう思っていた。だが、ネリネの扱いを見て、同じだと気づいた――」