「ネリネ様。のちのちのためにお教えしておきますが、喧嘩を売る相手は選ばれた方がよろしくてよ。相手の頭が自分より切れるか、人脈や人望はどのようなものか、劣勢になった際にどれだけの味方を集められるか……慎重に見極めて、勝てる勝負に持ち込まなければ無様にも見世物にされるのは己の方。次があるならお気をつけなさいませ。でも、もうそんな機会はないかしら。田舎で一生下働きですものね?」
「こうなったのは、あんたのせいよ……!」

 逆さ吊りのネリネは、もはや衆目もプライドも関係なく、体を大きく揺らしながら大声でマリアを罵った。

「正真正銘の悪女め! あんたみたいな女こそ、辺境に追放されるべきだわ!! 今に見てなさい、どうせそのうちレイノルド様に愛想を尽かされて、孤独に死ぬことになるんだから!!」
「それは〝預言〟かしら。それとも、負け犬の遠吠えかしら……」

 マリアの顔から表情が消えた。
 感情のない美貌はより迫力を増して、ネリネや周りの空気をサッと冷やした。

「わたくし、自分が他人の言葉にここまで翻弄されるとは思っていませんでしたわ。ドレスに水を掛けられようと、陰で口汚くののしられようと、毅然としていられると思っていたのです。しかし、破滅の預言を受けて、心が大きく揺らぎました」

 悪口に始まり、くつがえせない預言や不利な状況など、ネリネにはしつこく苦しめられてきた。傷つかなかったといえば嘘になる。
 だがマリアは、どれだけ泣き喚きたくなっても、気持ちを押しとどめて耐えた。