勝ち気なマリアに、クレロは真顔で反論する。

「それだけですよ。神に誓って」
「残念ですわ。こんな形で、あなたの人生を終わらせなければならないなんて。アルフレッド様、やってくださる?」
「わ、わかった……!」

 命じられたアルフレッドは、大きな筆とチューブを持ち上げて、王妃の肖像画の前に走っていき、脚立にのぼった。
 そして、チューブの中身を筆にのせて、キャンバスにベッタリと塗りつけた。

「これは――!!」

 観衆が一気にざわめいた。
 アルフレッドが塗りつけた赤い絵の具は、まるで魔法にでもかけられたように――となりに飾られた絵の中のマリアのように、キラキラと輝いていた。

 マリアは、動揺に包まれた会場中に向けて声を張る。

「その絵の具は外国製です。この国では禁じられている魔法の効果で輝いているように見せる代物ですわ。当然、タスティリヤ王国には輸入されておりません。それなのに、どうしてクレロ様はお使いになっているのでしょう?」

「失礼! 国王陛下はこちらにおられるか!!」

 宮殿の庭に、数名の騎士を率いたレンドルム辺境伯が現われた。
 いきなり乱入してきた父親に、クレロは面食らっている。

「お父様、なぜ王都に……?」
「なんてことをしてくれたんだ、この馬鹿息子が!!」
「ぎゃっ!」

 力いっぱい頬を殴られて、クレロは数メートル宙を飛び、軽食が用意されたテーブルに突っ込んだ。
 息子に鉄槌を落とした辺境伯は、壇上にいる国王とマリアに片膝をついた。伯にならって、後ろに連なっていた騎士たちもひざまずく。

「ジステッド公爵令嬢から聞いた愚息のアトリエを探したところ、数十本に及ぶ魔晶石が見つかりました! 国王陛下が辺境に騎士を向けなさった際の混乱に乗じて、盗まれていたものであります。これを戻せば、辺境は――」
「国王陛下」