「俺?」

 いぶかしむレイノルドに、マリアは深くうなずいた。

「こちらをご覧くださいませ」

 マリアの肖像画のとなりにあった額から、布が取り外される。
 そこにあったのは、クレロが描いた王妃の肖像画だった。
 キラキラ輝くマリアの絵に対して、こちらは筆のタッチも色合いもいまいちで冴えない。

「この二枚の絵は、両方ともクレロ・レンドルムという辺境伯の五男によって描かれました。肖像画家として名を馳せる彼の絵は、描かれた人物が輝いて見えると評判で、貴族令嬢やご夫人は競い合うように依頼をしています」

「それは俺も知っている。だが、母上の絵は輝いていないようだ」
「レイノルド様だけではなく、お集まり皆様もそう感じておられるでしょう。作者もタッチも癖も同じこの二枚の大きな違いは、描かれた時期にあります。わたくしの方は、つい最近。王妃殿下の方は、辺境の預言が行われる以前に描かれたものなのです」

「それが、どうかしましたか?」

 クレロが人混みから現われると、ネリネの肩がビクッと揺れた。
 華やかな白い宮廷服を身にまとったクレロは、聖女に対して態度も声も落ち着いている。

「辺境への預言が行われ、騎士たちがレンドルム領に向かった頃、私は自分らしい描き方に目覚めました。ふとしたきっかけで上達するのは、絵描きには珍しいことでもありませんよ」
「本当に、それだけかしら?」