「聖女が具体的な預言をして、側近の男がそうせざるを得ない状況に陥らせる手紙を地元の有力者へ届ける。事態が収まると、彼らは国王陛下に感謝状を返信する。そうして、預言は叶ったように見せかけられてきた。これが、タスティリヤ王国が崇めてきた聖女の真実なのです」

「作り話だわ! どうしてみんな、聖女のあたしより、こんな悪女の言うことを信じるの!?」

 ネリネは声を張り上げるが、どよめく観衆はとうに彼女を見かぎっていた。
 聖女のサロンに参加していた令嬢たちも目を背けて、誰一人として庇う者はいない。

(こうなるから、偉ぶってはいけないのよ)

 忠告はした。それを聞かなかったのはネリネだ。
 可哀想だけれど、マリアも聖女を助けるつもりはなかった。

「ネリネ様。国王の寵愛を受けて育ったあなたは、いつからか自分が預言の力のないただの人間だと気づいてしまったのでしょう。聖女でなければ、居心地のいい居場所を追われてしまう。だから、自分に恋をする男を利用して、預言を叶えさせた」
「ちがう! その男とは、ほんとうに何の関係もないんだってば!!」

 ネリネが叫ぶと、ヘンリーがガンと側近の手を踏み潰した。
 側近は「ぎゃあ!」とくぐもった悲鳴を上げる。

「いいの? 聖女様がフォローしてあげないと、こいつ処刑されちゃうけど?」
「好きにすれば。預言を受けての手紙は、その男が勝手にやったことよ! そいつがどうしようと預言は叶ったはずだし、死んでもあたしは少しも困らないんだから」

 なぜか勝ち誇った様子のネリネに、マリアは追い打ちをかける。

「困らないでしょうとも。ネリネ様はもう、自分で自分の預言を叶えていく自信を手に入れてしまったもの。国を揺るがせた、あの一件で――」