騒ぎを起こしたとて、国王からの信頼は揺るがない自信がある。
 しかし、正式にマリアへ婚約破棄が言い渡されるまでは、彼女もまた要人。やりようによっては、レイノルド自身の怒りを買う。

 そうなれば、次の王にも重用されて贅沢な暮らしを続けるというネリネの野望は潰えたも同じだ。

 ネリネは、暴れたい気持ちを抑えて壇へと近づき、マリアに対峙した。

「貴族を集めて肖像画のお披露目会? よっぽど自分が好きなのね!」
「その言葉、そっくりそのままお返ししますわ。それに、今日は肖像画のお披露目ではなく、わたくしとレイノルド様の婚約披露パーティーですのよ」
「はぁ? あたしは聞いてないわよ! 招待状を渡し忘れてんじゃないの?!」
「それは失礼致しました。ですが、おかしいわね……」

 マリアは、頬に手を当てて、わざととぼけてみせた。

「こういった大きな催しに参加する場合、貴族令嬢は他のご令嬢と装いが被らないように、ドレスの色合いや柄についてそれとなく話すもの。招待状をお渡しした令嬢たちは、誰もネリネ様に相談されなかったようですわね。ひょっとして、嫌われておいでなのかしら?」
「なっ!」
「人望のない聖女様ですこと。だから、兄妹同然に育った妃候補でありながら、レイノルド様に相手にされなかったのでしょうね」
「あっ、あんたがかすめ取ったんでしょうが……!!」

 カッとしたネリネは、近くに居た貴族からグラスを取り上げてマリアにかけた。
 マリアは、あえて避けずに頭からずぶ濡れになる。

 第二王子の妃に内定した公爵令嬢が、候補だった聖女に白ワインをかけられた――突然の修羅場に、辺りはシンと静まり返った。

 しかし、マリアは怒らなかった。
 顎から落ちた白ワインの雫を、コルセットで盛り上がった胸に伝わせながら、あざやかな笑みで壇上を振り返る。

「――わたくしが言った通りになりましたでしょう?」