宮殿の庭に集まった貴族たちは、噴水のそばに掲示された絵画に群がっていた。
 描かれているのは、大胆にデコルテが開いた深紅色のドレスを身にまとい、自信あふれる表情で長椅子に座るマリアヴェーラ・ジステッド公爵令嬢だ。

 絵の中のマリアは、持ち前の美貌もさることながら不自然にキラキラと輝いている。そのせいで、となりに設置された布で覆われた額に目を向ける観衆はいなかった。

「……なぜ、マリアヴェーラ様はこういった形でお披露目をなさったのか……」

 人混みの中にいたクレロは、自ら完成させた肖像画を見上げて呟いた。

 マリアにフラれて以降、ジステッド公爵家には近づいていない。
 完成した絵を送り届けたら今生の別れだと思っていたのに、依頼料と共に届いたマリア直筆の手紙によって、この場に呼び寄せられたのだ。

 物思いに沈んでいると、宮殿の方でキンキンうるさい怒鳴り声がした。

「なんなのよ、この騒ぎは! どうしてこんなに人が集まってるわけ!?」