令嬢たちに流された誹謗中傷の数々。
 突如として降ってきた破滅の呪文。
 
 そして今、辺境で異変が起きている。
 人目をはばかるように落ち合っていた男女の意味するところは――。 
 
「――レイノルド様。辺境へ出発するまで一月はありますわね?」

「ああ。騎士団の編成や装備の確認、辺境までの補給計画を立てる必要がある。それがどうした?」

「出発の前に、婚約披露パーティーを開きましょう」

 顔を上げたマリアの表情は、大輪咲きの真っ赤な薔薇のように気高かった。
 細めた瞳は激しく燃えている。対して、口元は余裕そうに弧を描いている。

 世にも美しい令嬢の視線を一身に浴びたレイノルドは、ごくりと喉を鳴らした。

 誰しもが認める〝高嶺の花〟は、剣より鋭い刺を持っている。
 絶対に手折られない自信があるからこそ、こんなにも強くいられるのだ。

「あんた、またよからぬことを仕出かすつもりだな」
「まあ! レイノルド様も、わたくしがどんな人間か、分かってこられましたわね」

 マリアは、声を出して笑った後で、うっとりと微笑みながらレイノルドの頬に手を当てた。

「わたくしの恋は、わたくしが守る。そう心に決めましたのよ」