マリアは、門番に手渡されたハンカチを見せた。
 女性にだけ薔薇の酒を出す、という一文が書き込まれている。

「ただの宣伝だろ。これがなんだ?」
「これは女性にだけ通じる暗号なのですわ。お酒の席で『薔薇の香りのものを』と伝えると、アルコールではなく花の蜜を溶いた水が出てくる仕組みなのです」

 女性を酔わせて連れだそうとする輩には、この手法が一番きく。
 レイノルドは、「知らなかった」と目を丸くした。

「ご存じないのは当然ですわ。男性に知られたら暗号の意味がありませんもの。では、お話を聞かせていただきましょう」

 飲み比べに負けた紳士は、横顔をテーブルにくっつけて伸びたまま言う。

「ひっく、さっきのカップル、どちらも声が小さくて会話はほとんど聞こえなかったね。だから、酒をぶちまける寸前の『あんたのために預言してやったのに』って言葉しか分からないさ、ひっく!」

「預言、してやったのに……?」

 ざわっとマリアの血が騒いだ。
 足下から頭まで、怒りにも似た熱い衝動が駆け巡る。

(思えば、これまでの問題には全て聖女が絡んでいるわ)