マリアは、一口で酒を飲み込んだ。
 うっすら蜜の甘みを感じる液体は、すうっと喉を通ってお腹に落ちる。

「もう一杯」
「ひっく、こっちにも!」

 そうして、マリアと紳士は二杯目、三杯目とグラスを空けていった。
 平然としているマリアに対して、紳士の顔はどんどん赤くなっていき――十杯目を飲んだところで急に泣き出した。

「ひっく、ひっく、もう無理だ! あんたの勝ちでいいぜ、お嬢さん!」

 わっとギャラリーが沸いた。
 彼らはどちらが勝つかお金を賭けていたのだが、マリアより紳士の方に人気が集中してたので、取り分はかなりの金額になったようだ。
 十一杯目に手を伸ばしていたマリアは、薄布の下でにこりと微笑んだ。

「美味しいお酒でしたわ」
「ちょっと、あんたたち! 賭け事はよしてって言ってるじゃないの。散った散った!」

 マダムの一声でギャラリーは解散する。
 そばに残ったのは、納得がいかない様子のレイノルドだ。

「あんた、そんなに飲める口だったのか?」
「いいえ。わたくし、深酒は好みませんもの」
「じゃあ、なんで……」
「これです」