「レイノルド様。あの方はひょっとして……」
「男性だ。ここは、変身願望のある連中が羽目を外しにくるクラブで、名のある貴族もお忍びで遊びに来る。と、ヘンリーに聞いている」
「まあ……!」

 異性装は犯罪ではないが、趣味が露見すれば周りから白い目で見られる可能性がある。
 こういった偏見のない場所が存在していることが、生まれたときから模範的な生き方を強いられる貴族の檻に入れられていたマリアには新鮮だった。

(タスティリヤ王国が、こんな風に誰しもが自由に振る舞える国になっていったら素敵だわ)

 もしも、それがレイノルドの治政であったなら、マリアは喜んで国を変える手伝いをする。

(レイノルド様が国王になったら、この国はどうなるのかしら……)

 ほわほわと未来を思い描いていたマリアの肩に、ぽんと手がかかった。
 振り向くと、紫煙の向こうからヌッと、目蓋がメタリックな紫アフロの生首が現われた。

「新顔ちゃんがいるわね」
「きゃ――」