おっとりしている母は、今回もマリアの味方だ。
 しかし、彼女でも父の決定には逆らえない。貴族の家の者は当主である男性の意向に従わなくてはならないのだ。
 マリアは冷静をよそおって麗しく微笑んだ。

「お母様。わたくし、お部屋でお手紙を書いておりますわ。噂は噂。わたくしが毅然として、レイノルドと仲睦まじく過ごしていれば、いずれ晴れますでしょう」

 金で作られたペンを握り、若草色のインク瓶を開けて、愛らしい花模様の便箋に向かう。
 レイノルドに送ろうと思ったのは、辺境伯の緊急事態はどうなったか、報せてほしいというお願いである。

(我ながら色気がないわね。けれど、どうしてだか気になるのよ)

 辺境で何があったのだろう。
 他国に少しちょっかいを出されたとか、領内のトラブルに関しては、国王の決断を待たずに辺境伯が対処してきたはずなのに。

(まさか、わたくしとレイノルド様が結婚したら『国が破滅する』という預言のせいではないわよね……?)