レンドルム辺境伯、ジステッド公爵を連れて、レイノルドは宮殿に向かった。
 残されたマリアも劇が終わるのを待たずに帰路についた。
 そして、母に懇願してクレロを家から追い出してもらった。

『お母様。わたくし、レンドルム氏に劇場で怖い目にあわされましたの。もう彼と顔を合わせるのは嫌ですわ』

 肖像画はもう完成間近なので、クレロのアトリエで完成させた物を家に運ばせることにした。

 レイノルドに持たれた浮気疑惑が晴れて、ほっとしたのも束の間。
 困り顔の母がマリアの元にやってきたのは、その翌日だった。

「良くない噂が流れているわ。貴方が肖像画家のレンドルムと劇場で浮気していたのを、見た令嬢がいたそうなの。身に覚えはあるのかしら?」
「わけあって二人きりになったのは昨日お話しした通りです。けれど、それはレイノルド様もご存じですし、断じて浮気などではありませんわ」
「そうですか……。お母様は信じますけれど、噂を耳にしたお父様はカンカンに怒っていらっしゃるわ。帰って来るなり『マリアヴェーラを部屋から出すな』と命じられて、もうすぐこの扉も釘で打ちつけられてしまうの。お食事は隣の部屋から運ばせるつもりだけれど」