ロビーに杖をついて入ってきたのは、大きな体格の老人だった。
 獅子のように逆立ったグレーの髪と、鼻を横切る古傷が厳めしい顔つきは、マリアも良く知っている人物だ。
 マリアは、素早く立ち上がってドレスを整えると、深くお辞儀する。

「お目にかかれて光栄です、レンドルム辺境伯。わたくしは、ジステッド公爵令嬢のマリアヴェーラでございます」
「おお。先だってはお世話になりました。そちらは――」

 レンドルム辺境伯は、マリアを支えるレイノルドに気づくと、拳を胸に当てる武人の礼をした。

「第二王子殿下にも相まみえるとは、急いで王都へ着て正解でした」
「急いで? ということは、辺境で何かあったのか?」

 尋ねたレイノルドに、辺境伯は神妙に答える。

「詳しくは、ジステッド公爵を交えてご説明いたしたい……。とある事情で、辺境が脅威にさらされております。このままではいずれ国中に被害が広まり、国を揺るがす問題となりかねません」
「国を揺るがす……」

 衝撃的な言葉に、破滅の預言を抱えたマリアとレイノルドは顔を見合わせたのだった。