開演時刻ちょうどに幕が上がる。
 愛らしい歌姫の見せ場も半ばに、悲劇へと突き進む主人公の運命は、情感に満ちた音楽と重なって盛り上がる。
 悲しくも美しい物語に、マリアは自分の境遇を重ねた。

 ――わたくしとレイノルド様の結婚が、国を破滅させる――

 聖女の預言は出まかせである可能性が高い。それも、かなりの割合でだ。
 しかし、嘘は言った者勝ちのものでもある。どんな突拍子もない話も、広まるうちに信憑性を増していき、何の落ち度もない誰かをおとしめる。

『知り合いの誰それが聞いたそうだ』『友達の友達が言っていたらしいんだけど』
 そうやって人口を膾炙《かいしゃ》していく中で、嘘は真実のお墨付きを得るのだ。

「さて、知人に挨拶してくるか」